イオンビームを物質に照射すると,特性X線と呼ばれる元素固有のエネルギーを持つX線が発生します。従って、試料にイオンビーム(通常、3 MeV陽子ビーム)を照射して発生した特性X線のエネルギーを測定することにより、試料中に含まれる様々な元素の濃度を調べることが可能です。X線の測定にはSi (Li)検出器などの半導体検出器が用いられ、エネルギースペクトルから試料に含まられている元素を同定し,カウント数からその元素濃度を評価します.この分析方法はParticle-induced X-ray emission(PIXE)と呼ばれ、Naよりも大きな原子番号の元素をppm(µg/g)オーダーの高感度で比較的簡便に同時分析する方法です。PIXE法は、医学、生物学、環境科学、農学、さらには文化財や遺跡に関連する人文科学など、様々な研究分野に利用されています。PIXE法の特徴としては下記の点が挙げられます。
- 1回の測定で試料中に含まれるNa以上の重元素を同時に定量分析できる。
- 数十µgの少量の試料でも分析できる.
- 大気中にビームを取り出すと液体の試料などを直接に分析できる.
- 1 µm径程度のスポットビームをスキャニング照射することによって,微量元素の試料中での空間分布をµmのスケールで測定し、各種元素の2次元濃度分布(元素マッピング)が得られる(マイクロPIXE分析)。
マイクロPIXE分析によって、試料に含まれる元素の2次元濃度分布を約1µmの空間分解能で取得可能
PIXE分析による研究例
シイタケにおけるアルカリ元素濃度分布測定への応用
イメージングプレートを用いたオートラジオグラフィから、シイタケの笠の端に放射性セシウムが集積していることがわかります。
シイタケ試料に3MeV陽子ビーム照射したときに得られたX線エネルギースペクトル。In(インジウム)は内部標準元素として試料調整で添加されたものです。
サブミリPIXE分析(0.5mm径のビームで試料をスキャン)で得られたシイタケ試料の元素マッピング。オートラジオグラフと比較すると、放射性セシウムの分布とカリウムやルビジウムの分布が非常に類似していることがわかります。つまり、カリウム、ルビジウム、セシウムはアルカリ金属元素で化学的性質が似ているため、放射性セシウムのシイタケへの取込み・集積の研究において、放射性セシウムの代替元素として天然に存在するルビジウム等が利用できる可能性が示されます。
マウス腫瘍組織内の抗がん剤濃度分布
同じくサブミリPIXE分析で、白金系抗がん剤を投与したマウス腫瘍サンプルの元素濃度分布を示します。腫瘍組織内のK、Pなどの主要元素の他にプラチナ(PtLと表記されたもの)も腫瘍組織内にほぼ一様な濃度で分布していることが確認でき、プラチナを構成元素として含まれている抗がん剤が、投与後に腫瘍全体に一様な濃度で伝達されていることが示されます。このように、PIXEは薬剤伝達の研究、開発にも有用な分析技術です。
PIXE用小型サイクロトロン及び分析システムの産学連携利用推進
原工業株式会社(函館市)佐々木太郎記念PIXEセンター所有のPIXE分析専用サイクロトロンおよびPIXE分析システムを用いて、同社と東北大学CYRIC測定器研究部が連携し、PIXE分析の産業利用、PIXE分析の応用研究の推進に取り組んでいます。
原工業(株)佐々木太郎記念PIXEセンターの小型AVFサイクロトロンとPIXE分析システム
PIXEシンポジウム
第34回PIXEシンポジウム(2018年11月7-9日、青森県浅虫)を主催しました。
リンク: PIXE研究協会